株式会社産業数理研究所Calc

産業数理のチカラ

ここでは、「産業数理」のチカラを身近に感じてもらえるような事例紹介やその解説記事を掲載していく。

共同輸送マッチングシステム(TranOpt)

システム開発の背景

 皆さんは物流業界における「2024年問題」をご存知でしょうか。経済産業省によると、
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、物流効率化などの取り組みが進まなかった場合には、荷物の配達に影響が出るなど物流が停滞することが懸念されています。これを、物流の「2024年問題」といいます。
(迫る物流の「2024年問題」、私たちができること|経済産業省 METI Journal ONLINEより引用)
 昨今の電子商取引の増加に伴い、市場の物流が大幅に増加している一方で、物流業界では人手不足が大きな問題となっています。そのため、より少ないトラックでより多くの荷物を運ぶことができる共同輸送(※1)の必要性が更に高まっています。先進的な取り組みとして、AI 等の新技術を活用した共同輸送マッチングの効率化に注目が集まっていますが、膨大な組み合わせを探索するのは計算機をもってしても時間がかかるため、瞬時に応答できるシステムの構築は困難でした。
 そこで、日本パレットレンタル株式会社(以下 JPR)と国立大学法人群馬大学によって共同開発されたのが、共同輸送マッチング技術特開2023-061515|特許情報プラットフォーム)です。この技術は、JPRが提供する共同輸送マッチングシステム「TranOpt(トランオプト)」にコアエンジンとして搭載されています。

※1:複数の物流企業が1つのトラックやコンテナに同じ届け先、あるいは経路途中の届け先への荷物を積載して運送する輸送方法。空積を減らすことで運搬効率を上げることができる。

共同輸送マッチングシステムと数学

 共同輸送マッチングシステムは、膨大な輸送ルートのデータベースの中から、効率が高い共同輸送の組み合わせを瞬時に列挙して提案してくれる技術です。この技術の背後には数学や数理科学分野の成果が用いられており、数学分野で知られる「距離の公理」(※2)などといった、背後に潜む不等式を上手く活用することで、見逃しなく効率の良いルートを探索しているそうです。仮に効率のよい100件のルートを提案する場合、すべてのルート計算する方法に比べて、共同輸送マッチングシステムの方が、三角輸送(※3)であれば約4,000倍、混載輸送(※4)であれば約1,500倍も計算スピードが速くなったとのこと([2])。
 また近年では、AI が出力する結果をブラックボックスのままにするのではなく、根拠がわかるように説明可能であることが重要視されるようになってきました。実は、この技術では高度な探索ロジックを用いているものの、出力される結果については数学的な観点から簡単に解釈を与えられるそうです。他にも、TranOptには、例えば三社間で共同輸送を行う際に、輸送運賃の予測値と公平な費用負担を計算してくれる機能も搭載されており、公平な費用負担については、協力ゲームの理論(※5)を元に算出しているとのこと。
 このように、TranOptには開発技術以外についても数学や数理科学分野の先人たちの成果が活用されています。数学が産業界の課題解決の役立つことがわかる顕著な例といえるでしょう。

※2:「非退化性」「対称性」「三角不等式」の3条件からなる、数学において距離を考える上での基本原理。
※3:1台のトラックで、3本の輸送を逐次的に処理する輸送方法。
※4:3本の輸送を混載して同時に運ぶ輸送方法。
※5:複数の事業者による協力が成立するための条件や協力時の公平な費用負担などを議論する数学理論。

参考文献
[1] 迫る物流の「2024年問題」、私たちができること|経済産業省 METI Journal ONLINE(2023年6月1日閲覧)

[2] JPR 日本パレットレンタル株式会社|群馬大学と、協力効果が高い輸送ルートの組み合せを高速に列挙する共同輸送マッチング技術を開発(2023年6月1日閲覧)

進化する電子部品検査:ディープラーニングと統計的洞察の融合

電子部品の微細な欠陥を検出するために、最新の数学的手法とAI技術が融合。ヒストグラムベースの局所特徴量とディープラーニングアルゴリズムを駆使し、見過ごされがちな不具合も逃さない精度を実現します。
• ディープコンボリューショナルオートエンコーダー
自己学習する神経回路網を用いて、電子部品の理想的な画像と欠陥がある画像を生成、繊細な欠陥も見落としません。
• 次元削減技術とHOG特徴量
データの本質的な特性を抽出し、高速かつ効率的な識別を実現。局所的特徴からグローバルな洞察へ、機械が見る世界の解像度を高めます。
• 数式とグラフィックスで見る品質管理
数学的アプローチに基づく解析で、品質管理プロセスの透明性と再現性を実現。図と式で解き明かす複雑な現象。

これらの技術により、電子部品の品質検査は新たなステージへと進みます。緻密な検査手法で、製造業の未来を切り拓き、次世代の電子デバイス生産に貢献します。数学が拓く、未見の精度への挑戦―Calcと共にその全貌を見にいきませんか。



投稿論文
[1] 柳部 正樹,大井 健太郎,田中 智裕,⻄村 晃紀,前田 俊二,電子部品検査における欠陥検査感度制御のための Deep Convolutional Auto-encoder を用いた学習画像生成の検討,精密工学会誌,Vol.85, No.8, pp.733- 740(2019.8)
[2] ⻄村 晃紀,柳部 正樹,⻑谷 智紘,森山 健,前田 俊二,電子部品検査におけるHOG特徴量の局在性に着目した次元削減による欠陥識別性能向上に関する提案,精密工学会誌,Vol.85, No.5, pp.469-476(2019.5)
[3] ⻄村 晃紀,柳部 正樹,橋本 将弥,荒木 智行,⻑谷 智紘,森山 健,前田 俊二,ヒストグラムベースの局所特徴量を用いた電子部品の外観検査手法の提案,精密工学会誌,Vol.84, No.7, pp.664-670(2018.7)

数理解析で紐解く、金属面の痕跡識別

痕跡の類似性を識別するために、先端の数理統計と画像解析技術が融合。正規化相互相関などの数学的指標を活用し、極微の差異も見逃さない精度を実現します。

• CannyのオペレータとHough変換:画像から特異なエッジを精密に抽出。
• Histogram Intersectionの応用:類似性分析に基づき、固有特徴を高精度に絞り込む。
• 数式とデータで解明する鑑定技術:数学的手法に基づく類似性評価で、識別プロセスの透明性と精度を向上。

これらの最先端の数理モデルを活用した技術により、
数学的類似性分析と画像解析の統合で、多様な比較検査の新たな可能性を開きます。

先進的な識別技術は産業界においてもその価値を発揮。良品との比較や設計データとの比較を基本とした検査プロセスにおいて、当技術は類似性に基づく高感度な比較検査を実現します。特に類似性が低いが似ていると判断すべきケースや、混在する非類似部分を含めて正確に評価する必要がある場面で、この技術はそのポテンシャルを発揮します。製品の品質保証から異常検知まで、官能検査まで含む、幅広い産業アプリケーションでの使用が期待されます。




投稿論文
[1] ⻄村 晃紀,前田 俊二,荒木 智行,金子 俊一,渋谷 久恵,仁戶部 勤,安野 拓也,飯塚 正美,中山 透,Histogram Intersectionを用いた弾丸固有の線条痕の絞込み手法の提案, 精密工学会誌,Vol.83, No.8, pp.781-788(2017.8)
[2] 藤井 周,前田俊二,荒木智行,仁戶部勤,金子俊一,渋谷久恵,安野拓也,飯塚正美,中山 透,弾丸異同識別のための線条痕の重み付けと位置を保存したHistogram Intersectionによる類似性評価手法の提案,精密工学会誌,Vol.82, No.7, pp.672-678(2016.7)
[3] 米田 圭吾,金子 俊一,渋谷 久恵,前田 俊二,仁戶部 勤,飯塚 正美,中山 透,画像解析に基づく線条痕の特徴強調と局所照合による発射弾丸の異同識別,精密工学会誌,Vol.80,No.12,pp.1182-1188(2014.12)
[4] 前田 俊二,丸山 重信,飯塚 正美,仁戶部 勉,中山 透,線条痕顕在化と画像分割照合による発射弾丸の異同識別方式の検討,精密工学会誌,Vol.79, no.5, pp.423-429 (2013.5)

前田ゼミの学生ポスタ発表抜粋.pdf
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